りんこうや

少々年季の入った自転車乗りの独り言

俺の自転車スタイル:生還

俺が遭難して身動き取れずにいたころ、友は俺の彼女のアパートを訪ねた。約束の時間だった。彼女は料理学校に通う生徒で、彼女の試作品を俺と友とで批評する、という名目で集まるはずだった。

が、俺が帰ってこない。

友は、俺の行き先を知っている。こんな時間まで帰ってこないのはおかしい、と思ったと、後で教えてくれた。

彼は、俺の大学のサイクリング部の仲間、そして自分の大学の自転車競技部の仲間に声をかけ、捜索隊を出してくれた。

そのころ俺は、手だけで這いずって、大きな木を背に座っていた。滑落した斜面を見ると、自分より10mほど上にマシンが、さらにそのすぐ上に獣道らしき跡が見える。雪の上に、滑落した後がくっきり残っていた。月明りがこんなに明るいものだとは知らなかった。

寒い、夜明けはもっと寒いのかな、マジ、俺、ここで死ぬか。

その時、上から、おーい、見つけたぞーと、声が聞こえた。

友が出してくれた捜索隊だ。彼の大学の自転車競技部に元ワンダーフォーゲル部というのがいて、彼が知識を持っていたのだろう、なんとか俺を引きずり上げてくれた。雪で、自転車が通った跡や滑落の跡を見つけるのは容易だったらしい。

添木をその場で作り、なんとか生還することができた。林道終点から県道まで彼らにかわるがわるおんぶされ、救急車が呼ばれた。

左足首骨折、腿の傷は20針近く縫合。右足は打撲で済んだ。傷はそれだけではなかった。自分では気づかなかったが、顔面にも傷を何か所か負っていたのだった。当直の医師が皮膚科で細かく縫合してくれたが、傷跡は残るという。顔面は、都合15針縫合した。でもその医師は、整形外科が当直でなくてよかったな、整形外科だったら5針だぞ、俺は皮膚科だから細かく縫って15針だ、と慰めてくれた。