りんこうや

少々年季の入った自転車乗りの独り言

俺の自転車スタイル:もう一つの第一歩

事業が軌道に乗りそうだと目途が立った時、俺は、姉の部屋から出ていくことにした。姉は複雑な顔をしていた。

ついにあなたも独り立ちね、次郎が独り立ちして、太郎が独り立ちか。一番しっかりしていないあなたが独り立ちしたんだから、そろそろあたしも独り立ちかな、なんて言っていた。

その日は突然やってきた。

アパートを見つけ、少ない私物を姉の部屋から持ち出せるように整理をしていたら、姉が帰ってきた。彼氏を連れて。

姉の彼氏なのだから当然俺よりずっと年上だが、なんと、玄関で初対面の俺に対して、お互い自己紹介をする間もなく、俺を見るなり土下座をした。

お姉さんを私に下さい!

ちょっと待ってくれ。それは、普通、父親に対して、娘さんを私に下さい、というべきだろう。確かに、父親はもう死んで、もういない。でも、母親だっているし、それに、自分の妻になる女性の弟、つまり、将来の義弟に土下座してお姉さんをくださいなんて、どう考えてもおかしいだろう。

俺は、吹き出してしまった。

姉の彼氏、俊也、としよう。俊也は理香子から、理香子が弟コンであること、そして、その対象である俺と下の弟の次郎が姉コンで、特に俺がひどい姉コンであることを告白されていた。

俺は、俊也は俺のライバルであって、独り立ちのきっかけは俊也であるのに、突然の土下座攻撃で、すっかり気が萎えてしまった。完全に戦意喪失だ。

これで、姉も姉の第一歩を踏み出すことになった。

さて、俺の事業だが、弟や姉の事業に比べたらささやかなものだ。だが、自分の部屋を借り、自転車関連の費用を捻出し、食っていくくらいの稼ぎにはなった。

自転車バカの俺が、自転車で食うことになるとは思ってもみなかった。だが、弟に言われた。俺は、二つの事業をすでに立ち上げた、と。一つは、まだ続けている自転車のインストラクター。そして、もう一つは中古自転車の輸出。短期間で二つの事業を立ち上げるなんて、兄ちゃん、すごいぜ、って。

ありがとよ。