りんこうや

少々年季の入った自転車乗りの独り言

俺の家族:姉の実父

ちょっと事情があって、ずっと更新しないでいた。まあ、自分のためのブログだからどうでもいいんだが。

さて、姉が結婚した。弟が結婚した。親戚が増えたということになる。そんな中で、親戚なんだかそうでないんだかわからないような人物がいる。姉の実父のことだ。

姉は義男とは連絡を取り合っていたので、父方の親戚と全く関係性を絶ったというわけではなかったらしい。というか、むしろ、姉の実父があちらの親戚の中で浮いた存在で、姉の従兄妹たちは姉のことを気にかけてくれていたらしい。

そういうわけで、義男を通じて俺は姉の実父に連絡をとってみた。初めて、姉の父親と顔を合わせた。姉は実の父親には絶対にあわないと、人生をかけて誓っているようなので、俺が会うことも知らせていない。

俺は、姉が結婚したこと、彼にとっての最初の妻である俺らの母が他界したことを淡々と報告した。

さて、その姉の父親、亮介が、なぜあちらの親戚の間で浮いた存在になっているのかというと、早い話、いわゆる遊び人だからだ。あちらの家は、たしかに、質実剛健な家風ではない。義理堅い家なのだが、陽気で誰とでも仲良くなる人が多いし、なんかあればどんちゃん騒ぎすぐする、そんな家だ。その中でも遊び人として認識されているくらいなので、相当なもんだ。

遊びという遊びはし倒したみたいだ。義男は、仲介してくれたとはいえかなり警戒しており、洗いざらいしゃべるのは避けるべきだ、金の話は絶対にするなと忠告してくれての対面だった。そうか、そういう人間なのか。

亮介はもう老人ではあったが、確かに着ているものなんかは元遊び人風情を醸し出していた。

不思議なことに亮介は、俺らの存在や姉の結婚には興味を示さず、母が他界したことにのみピクっと反応し、墓参りか位牌に線香を上げるかさせてほしいといった。俺が驚いたことに、義男は間髪入れずに対応し、オジキはもう関係ないだろ、捨てたとはいえ元の妻と元の娘のことだからって太郎が教えてくれただけでありがたいと思え、と言い放った。対面の場所となったのは喫茶店だったが、さっさと伝票をつかみとり、伝えることは伝えたので行くよ、と、俺を引っ張って店を出た。

亮介は、あちらの一族では勘当状態にあるらしい。後年、義男の母親、つまり亮介の妹から俺にだけ、ということで打ち明けられたのだが、俺らの母親が再婚したと聞きつけた亮介は、金の無心を俺らの父親にしたらしい。それがあちらの一族にバレて、それ以来勘当されているのだそうだ。あちらの一族は、それを姉の理香子に対して引け目に思っていて、数年後飲みすぎで肝硬変を患って亮介が他界した時も、勘当を解かなかったどころか、一族の墓にも入れなかったときいた。

一般的な話としてきくならば、ひどい男ではある。ただ、父親として、姉はどう思っていたのだろうか。姉は、そんな父親から生まれた自分を、継子としてというよりも、実子である兄弟と分け隔てなく育ててくれた俺らの父親に感謝しているみたいだし、だからこそ俺ら兄弟に格別の家族愛を注いでくれた、そんなところなのかな。

実は、俺は、亮介の位牌をつくって隠し持っている。といっても、俺が持っていると姉にバレる可能性があるので、実際は義男にあずかってもらっており、義男だけはそれを知っているが。姉に対する隠し事はない(というか、すぐバレるので、隠し事できない)のだが、これだけは口が裂けても言えない。

個人的に、俺は亮介に対して全く感情がない。だが、姉がどう思おうと、亮介がいなかったら姉が存在しなかったから、そういう理由で位牌だけはつくった。骨は散骨したらしいので、姉も俺も弟も老人になって人生を振り返った時に、もしかしたら必要になるかもしれない、そんな思いだ。

 

俺の家族、まだまだ複雑な展開を辿ることになる。そんじょそこらの小説より面白い展開だ。決して、楽なことばかりではなかったが。

俺の自転車スタイル:二つの結婚式

二つの結婚式には、義男と浩二、そして、義男の妹の祥子も呼んだ。これが俺の条件だった。俺の大切な仲間だ。

俺はてんやわんやだった。姉の理香子の結婚式では姉の父親役、翌週弟の次郎の結婚式では弟の父親役だ。

身内だけの結婚式だったので、そんなに規模は大きくないが、俺が一番心配だったのは、相手の家族に俺ら姉弟が異様に映りこむのではないのか、ということだった。

俊也の両親にも、礼子の両親にも、俺は正直に話をした。母親は共通だが、父親が違うこと、たぶんそのせいで、俺ら姉弟は親よりも絆が強くなり、恐らく、姉は弟コンで弟は姉コンであること、長男である俺は単なる自転車バカで一番デキが悪いこと、なので、家は長男ではなくて次男の弟が継いだこと、そんな話をした。

ところが、不思議と、俊也の両親も、礼子の両親も同じことを俺に言った。長男のあなたが姉弟2人の共通の父親役をしていたので姉弟が仲いいのではないのか、と。それだけ仲のいい姉弟に、自分たちの子供も入れてください、と。

俺は親でないはずなのに、どちらの結婚式でも、父親ってこんな気分かと、思わず涙がこぼれてきた。

これで、姉弟が兄弟姉妹になった。

母は病気でどちらの式にも出席できなかったが、さすがに病室でうれし泣きしていたようだったと、後で看護婦さんから聞いた。

一応、母に報告に行った。実は、俺が母に会うのも久しぶりだった。弟が、俺の事業のこと、姉の事業のこと、結婚式の様子、相変わらず姉弟べったり仲がいいこと、全部話をしているようだった。俺の顔を見て、母がこういった。顔の傷ももう目立たないね、そろそろあなたも肩の荷をおろしなさい、と。

はじめて、母のことを母親だと思った。

2人の結婚式から半年ほどたって、母は父のもとへ旅立った。

この結婚式は、もう一つの始まりでもあった。久々に再会した浩二と祥子が付き合いだしたのだ。浩二の任期が明け、帰国が決まり、彼らは婚約した。

俺の自転車スタイル:もうひとつの「そして」

姉の理香子が結婚の準備を進めていると、弟の次郎が礼子を伴って俺の部屋を訪ねてきた。そして、二人で俺に土下座した。

兄ちゃん、礼子さんと結婚させてください。

お前ら、ちょっと待て。どいつもこいつも、そういう挨拶は親にするものだろうに!なんだって一番頼りない俺にそういう挨拶するんだよ!しかも、なんだその挨拶は!わけわからないぞ!

俺は、次郎と礼子に聞いた。俊也が俺にあいさつしたことを知っているか、と。そしたら、それを聞いた二人は吹き出した。そんな滅茶苦茶な話、知っているわけないだろう、と。

次郎はその前の晩、姉の部屋に泊まったのだそうだ。そして、俺と同じく、寝る前の約束事を姉にねだって、こういったのだそうだ。明日、兄ちゃんに結婚をゆるしてもらう、と。姉は笑って、オーケーと答えたのだそうだ。

姉と弟は9つ離れているから、あまり一緒に寝たことはない。でも、俺ら姉弟、旅行とかで一緒に寝ると、いつもこれをやっていた。弟も同じことしたかー

俺の心配は、礼子の実家だ。弟だって、このブログにはあまり書いていないが、相当の兄コン、姉コンだ。レース中だって、練習中だって、何かあるとすぐに兄ちゃん、兄ちゃんと言っていたし、まだガキのころは、自分のお嫁さんは姉ちゃんだ、なんて言っていたくらいだ。そんな姉弟のもとに娘を出していいのか?

俺はこういった。礼子、俺ら姉弟、ちょっと変わっているのは知っているな、と。そんな家に嫁にきて大丈夫か、と。礼子はこう答えた。だからなんです、私もその中に入れてください、と。礼子は、俺ら姉弟にはできすぎた女性だ。その礼子がいいというのなら間違いないだろう。

で、結婚式はいつにする、と、聞いた。次郎と礼子は驚くべきことを言い出した。

姉ちゃんの結婚式の次の週。

で、兄ちゃん、俺の父親代わりをやってくれ、と。

姉コン弟コン姉弟、ここに極まれり。まあ、姉のバージンロードエスコートよりはまだましか。

俺の自転車スタイル:そして。

自転車スタイル書こうと思っていたんだが、すっかり家族史になってしまった。まあ、いいや。人生の振り返りさ。

さて、俺に、お姉さんをください、というふざけた挨拶をした俊也と姉の理香子だが、結婚することになった。

この俊也のふざけた挨拶、姉は知らされていなかったらしい。俊也も、事前に考えていなかったけれど、とっさにそういう行動をしてしまったとのことだ。

俺は俊也にこう言った。俺は、はっきりいってひどい姉コンのようで、弟は兄コン、+姉コン、姉は弟コンっていう滅茶苦茶な姉弟だが、あんたはそれでもいいのか、と。姉と結婚したら、もれなく、うざったい弟二人が付いてくるぞ、と。

俊也は、それでもいいという。姉弟愛と夫婦愛は別のものだ、ということのようだ、彼にとっては。うん、俺も彼女が何人かいたから、それはわかるけど、結婚とはちがうのじゃないかな。

まあ、姉も俊也に対する感情は、俺や次郎に対する感情とは別物らしいので、それはそれでいいか。

さて、俊也がふざけた挨拶したので、姉は姉でちょっと仕返ししてやろうと思ったらしい。普通バージンロードは、父親がエスコートする。が、俺らに父親はいない。姉の実父はまだ健在だが、母と離婚以来、姉とは一度もあっていない。つまり、30+/-ン年間連絡をしていない。姉に、心の中では実父とつながりたいのじゃないかと聞いてみたところ、全く感情がないとのこと。結婚式にも呼ぶつもりがないらしい。むしろ、他人なのに受け入れてくれた継父が唯一の父だと言っていた。

その父がいないので、こういう場合、年上の親戚の男性がエスコートするのだろう。が、姉の考えた仕返しとは、俺がその役をやる、というものだった。

弟が姉の結婚式のエスコートするなんて、聞いたことがない。なので仕返しなのだそうだ。それに、姉曰く、俊也が俺に対して姉との結婚の許可を求めたのだから、俺がエスコートして何がおかしい、とのこと。

そんなの、姉が弟コンだって向こうの家にばれるじゃないかと言ったら、それの何が悪い、と開き直られた。

もっとも、結婚式は親戚だけで行うので、この際だから隠し事はなくしたいらしかった。複雑なのは母親だった。そのころ、母も体調を崩し入院していて、姉の結婚式には出られそうもなかったのが幸いか。

姉がそういう準備を進めていると、もう一つ事件が起きた。

俺の自転車スタイル:もう一つの第一歩

事業が軌道に乗りそうだと目途が立った時、俺は、姉の部屋から出ていくことにした。姉は複雑な顔をしていた。

ついにあなたも独り立ちね、次郎が独り立ちして、太郎が独り立ちか。一番しっかりしていないあなたが独り立ちしたんだから、そろそろあたしも独り立ちかな、なんて言っていた。

その日は突然やってきた。

アパートを見つけ、少ない私物を姉の部屋から持ち出せるように整理をしていたら、姉が帰ってきた。彼氏を連れて。

姉の彼氏なのだから当然俺よりずっと年上だが、なんと、玄関で初対面の俺に対して、お互い自己紹介をする間もなく、俺を見るなり土下座をした。

お姉さんを私に下さい!

ちょっと待ってくれ。それは、普通、父親に対して、娘さんを私に下さい、というべきだろう。確かに、父親はもう死んで、もういない。でも、母親だっているし、それに、自分の妻になる女性の弟、つまり、将来の義弟に土下座してお姉さんをくださいなんて、どう考えてもおかしいだろう。

俺は、吹き出してしまった。

姉の彼氏、俊也、としよう。俊也は理香子から、理香子が弟コンであること、そして、その対象である俺と下の弟の次郎が姉コンで、特に俺がひどい姉コンであることを告白されていた。

俺は、俊也は俺のライバルであって、独り立ちのきっかけは俊也であるのに、突然の土下座攻撃で、すっかり気が萎えてしまった。完全に戦意喪失だ。

これで、姉も姉の第一歩を踏み出すことになった。

さて、俺の事業だが、弟や姉の事業に比べたらささやかなものだ。だが、自分の部屋を借り、自転車関連の費用を捻出し、食っていくくらいの稼ぎにはなった。

自転車バカの俺が、自転車で食うことになるとは思ってもみなかった。だが、弟に言われた。俺は、二つの事業をすでに立ち上げた、と。一つは、まだ続けている自転車のインストラクター。そして、もう一つは中古自転車の輸出。短期間で二つの事業を立ち上げるなんて、兄ちゃん、すごいぜ、って。

ありがとよ。

 

俺の自転車スタイル:第一歩

独り立ちの準備をすると宣言したものの、ぷー太郎に毛の生えた程度の俺には先立つものがない。

ねぐらは、姉の部屋のままだ。

俺は自転車バカで、社会人経験は、ちょっとの間の営業と、倉庫の荷物係しかない。でも、独り立ちの目算が、全くないわけではなかった。

お世話になっているショップのオーナーと話をしているときに一つ閃いたことがあった。それは、自転車の輸出だった。

とはいえ、伝手もなにもない。いろいろぶっつけの体当たりでやるしかなかった。短い間だったとはいえ、営業の経験が活きた。倉庫会社の昔の知り合いにあたり、輸出のプロセスを教えてもらった。ショップのオーナーから、中古自転車や部品調達の渡りをつけてもらった。

なるべく、理香子や次郎に頼らないでやってみたかった。

時間はかかったが、日本の中古自転車を修理して、アジア某国に輸出する事業の目途が立った。

事業、といっても、ささいな事業だ。事業のうちに入らないかもしれない。それでも、はじめて、自分の力で食っていけそうな気がした。

次郎に相談をした。独り立ちする、と。

次郎は、こういった。うちの会社を使え、と。最初、俺は、名義上所属している弟の会社の子会社をやめてその事業をするつもりだった。だが、弟も姉から強く言われているみたいで、弟の会社の一事業部でやれと強硬に主張した。干渉しないから、と。

弟がこんなに俺に強く主張したのは初めてだ。俺は、それを受け入れることにした。

なんとか、俺一人が食っていくくらいの稼ぎは出た。

俺の自転車スタイル:独り立ち

やがて、次郎が理香子と俺のねぐらに彼女を連れてきた。次郎は彼女に、これは姉と兄による面接だと言っていたらしい。

弟は、俺とはずいぶん違う。女を見る目も確かなようだ。俺も姉も、彼女のことをすぐに気に入った。

彼らが近くのホテルに去っていくと、俺と理香子はしんみりしてしまった。彼らが結婚するなんて言っているわけではないのに、俺らは、次郎は彼女と結婚したいのだろうと直感したからだ。自分たちの子供じゃないのに、なんだろうね、と、姉弟は飲みなおしながら寂しさを紛らわせようとした。

次郎の彼女は、俺らにも天使だった。弟の女を見る目がある、というのは、間違いない。

彼女、礼子、としよう。礼子の実家は、ちょっとした金持ちで、地元では知られた家だ。地元の社長会みたいな集まりで、次郎と礼子の父親が出合い、それがきっかけで付き合うようになったらしい。礼子の実家は、金持ちぶるところが全くない家風で、礼子自身、礼儀正しいのはもとより、明るく、かつマジメな性格だった。その礼子の実家の家業のウェブページ作成を、姉が請け負った。そして、そこに使う写真に写る利用者のモデルとして、俺が登場した。

次郎のためだ、理香子はがぜん張り切った。俺自身はモデルをしただけなのだが、俺も弟のためならと、一発で決めるように心がけた。

次郎に恥をかかせるわけにはいかなかった。

礼子の実家の会社には、とても好評だったようだ。次郎は面目躍如だし、姉は実績を上げたわけだ。

では、俺は?

自転車バカの俺はどうなんだ?

悩みを打ち明ける相手は、浩二か理香子しかいない。浩二は遠い異国で仕事をしている。となると、理香子にまた相談し、泣きついた。

弟コンの理香子は、自分が養ってあげるから好きにしろといってくれた。姉コンの俺がハイソウデスカ、なんて言えるわけないだろ!俺は、理香子に彼氏がいるのを知っていた。はっきり言って、そいつに負けたくないと思った。理香子はそれを感じ取ったのか、彼氏を俺に紹介することはなかった。

だが、久々に燃えるものを感じた。

ある夜、もう隣同士で寝ているわけではないが、姉に寝る前の約束事をやってくれとお願いした。姉はちょっとびっくりした様子だったが、こう俺に尋ねた。

明日の目標は?

俺は答えた。

独り立ちの準備を始める、と。

姉は、しばらく無言で俺を見つめ、泣きそうになっていた。そして、約束事通り、だが、無理に笑顔を作りながら震える声でこういった。

オーケー。