りんこうや

少々年季の入った自転車乗りの独り言

俺の自転車スタイル:独り立ち

やがて、次郎が理香子と俺のねぐらに彼女を連れてきた。次郎は彼女に、これは姉と兄による面接だと言っていたらしい。

弟は、俺とはずいぶん違う。女を見る目も確かなようだ。俺も姉も、彼女のことをすぐに気に入った。

彼らが近くのホテルに去っていくと、俺と理香子はしんみりしてしまった。彼らが結婚するなんて言っているわけではないのに、俺らは、次郎は彼女と結婚したいのだろうと直感したからだ。自分たちの子供じゃないのに、なんだろうね、と、姉弟は飲みなおしながら寂しさを紛らわせようとした。

次郎の彼女は、俺らにも天使だった。弟の女を見る目がある、というのは、間違いない。

彼女、礼子、としよう。礼子の実家は、ちょっとした金持ちで、地元では知られた家だ。地元の社長会みたいな集まりで、次郎と礼子の父親が出合い、それがきっかけで付き合うようになったらしい。礼子の実家は、金持ちぶるところが全くない家風で、礼子自身、礼儀正しいのはもとより、明るく、かつマジメな性格だった。その礼子の実家の家業のウェブページ作成を、姉が請け負った。そして、そこに使う写真に写る利用者のモデルとして、俺が登場した。

次郎のためだ、理香子はがぜん張り切った。俺自身はモデルをしただけなのだが、俺も弟のためならと、一発で決めるように心がけた。

次郎に恥をかかせるわけにはいかなかった。

礼子の実家の会社には、とても好評だったようだ。次郎は面目躍如だし、姉は実績を上げたわけだ。

では、俺は?

自転車バカの俺はどうなんだ?

悩みを打ち明ける相手は、浩二か理香子しかいない。浩二は遠い異国で仕事をしている。となると、理香子にまた相談し、泣きついた。

弟コンの理香子は、自分が養ってあげるから好きにしろといってくれた。姉コンの俺がハイソウデスカ、なんて言えるわけないだろ!俺は、理香子に彼氏がいるのを知っていた。はっきり言って、そいつに負けたくないと思った。理香子はそれを感じ取ったのか、彼氏を俺に紹介することはなかった。

だが、久々に燃えるものを感じた。

ある夜、もう隣同士で寝ているわけではないが、姉に寝る前の約束事をやってくれとお願いした。姉はちょっとびっくりした様子だったが、こう俺に尋ねた。

明日の目標は?

俺は答えた。

独り立ちの準備を始める、と。

姉は、しばらく無言で俺を見つめ、泣きそうになっていた。そして、約束事通り、だが、無理に笑顔を作りながら震える声でこういった。

オーケー。